きっかけは、高校1年生の時に読んだ本の内容でした。新しい薬が開発されれば、医師が一生のうちに救える人数よりも、何倍もの人を救える可能性があるという文章を見て、それに大きく影響を受けたからです。薬学という分野が社会に大きな影響を与える可能性を秘めていること、そして私も研究者になってその一助となりたいという強い思いを持ったことが薬学部を目指した理由です。
私は製剤学の魅力にひかれ、その研究に没頭しました。製剤学では、薬の治療効果を最大限に引き出すために、錠剤、カプセル、液剤、注射剤、外用剤などの形態を研究します。その中でも皮膚から全身に作用する経皮吸収型製剤という剤形について研究し、自分の手で科学の一端に触れる体験をしました。一回の所要時間が12時間かかるような実験もしばしば。長時間かけても成功ばかりではなく大変な実験も多かったですが、試行錯誤を繰り返した末に、期待する結果が出た瞬間は何物にも代えがたい喜びでした。
さらに、星薬科大学の研究室では、卒業後も定期的に連絡をとるような深い結び付きをもった恩師や仲間と過ごす、かけがえのない時間を過ごしました。ただ知識を深めるだけでなく、問題解決能力や忍耐力、チームで協働する力など、社会人としても大切なスキルを育む場だったと強く思います。そうした研究室で過ごした時間は、今の私を形成する大きな要素となっています。
現在、第一三共ヘルスケアの研究員として、品川にある研究開発センターで働いています。OTC医薬品、つまり薬局・ドラッグストア等で誰もが手に取れる市販薬の製剤設計を行っています。具体的には、OTC医薬品の処方と作り方を研究しており、とくに生活者のみなさんにとって最も服用しやすい形状や味にすることにこだわっています。大学時代に学んだ製剤学の基礎が活かされています。
日々の研究は、実験室での試行錯誤が多く、すべてが計画通りに進むわけではありません。そこで、私は大学で養った粘り強く取り組む力で、その壁を乗り越え、薬の可能性を一歩一歩拡げています。また時間管理や計画性といった、研究の現場で必要不可欠なスキルにおいても大学時代に培ったものが大きな力となっています。締め切りに追われる中で、どのようにして効率よくタスクをこなし、プロジェクトを前に進めるか。大学の研究で、自ら計画をたてて実験を繰り返したことが、今、私の日々の業務を支えています。
星薬科大学での学びは、私にとって「知識の習得」以上のものでした。人のために科学をどう活かすか、どうすればより多くの人々の生活を豊かにできるかという視点を常に持つことを学べたと感じています。今、私はその学びをもとに、一人でも多くの人の健康で豊かな生活に貢献できる製品の開発に向けて日々努力しています。自身が関わった製品が多くの人の手に渡り、使ってもらえることが一番のやりがいです。