正常な細胞のDNAメチル化異常を解析し、「ガンの超早期診断」の実現
本学は「教育研究大学」として、高度な研究力をベースに社会に貢献する医療人・薬学人を育んでいます。なかでも、緩和医療をはじめとしたがん研究の分野では、国内外から高い評価を集めています。そこで今回は、本学の牛島学長がリーダーを務める研究室であり、胃がんの早期診断の分野で世界トップレベルの研究を進める「エピゲノム創薬研究室」について、同研究室の特任准教授である服部奈緒子先生のインタビューをご紹介いたします。
エピゲノムにより、正常な細胞ががん細胞になる“前兆”の検知が可能に。
私たちエピゲノム創薬研究室では、「なぜがんができるのか」を研究しています。研究室の名前通り、エピゲノムをベースに、ゲノムについても研究しています。私たちの研究は、がん細胞ではなくて、一見正常に見える細胞たちに起きている “異常”を解析し、がんの「超早期診断」を目指すものです。
主なターゲットは、胃がんです。正常に見える細胞ががんになる原因として、胃がんの場合はヘリコバクター・ピロリ菌の感染が判明しています。ヘリコバクター・ピロリ菌は子どもの頃には正常な細胞に感染しており、その頃にはすでに細胞の中では前兆となる異常が起きています。その前兆となる異常が、エピゲノムから分かることを世界で初めて見つけたのが、本学の学長であり、私たちの研究室のリーダーである牛島先生なのです。
胃がんになりやすい遺伝子を見つけるという研究の多くは、胃がん患者さんと胃がんじゃない方の細胞を比較し、異常を見つけ、胃がんのマーカーとするものです。これは、“後ろ向きの研究”と言われます。これに対し私たちは、“前向きな研究”も行っています。胃がんになる前の人の検体サンプルを収集・解析し、注目していたマーカーを解析して、その中から胃がん患者さんが出るか否かを追跡するものです。ここでは、牛島先生が発見したピロリ菌感染者のDNAのメチル化異常をマーカーとしています。
したがってエピゲノムの中でも、特に私たちはDNAのメチル化を研究しています。具体的には、シトシン-グアニンの並んだ配列のシトシンにCH3(メチル基)が付くことで起きる現象により、周りの遺伝子が働かなくなる異常を解析しています。
発がんの素地(=field cancerization)の解析で、国内トップの実績。
胃がんの場合は、正常な胃の組織にピロリ菌が感染し、炎症の状態が続きます。その炎症が原因となり、酵素の働きに異常が起こり、DNAのメチル化が起きることを明らかになっています。こうした正常な細胞にがんの前兆をみつける考え方は、胃がんだけでなく、大腸がん、乳がん、肝がんなどの炎症が関連しているがんにも応用できます。
エピゲノム創薬研究室は、そうした発がんの素地(=field cancerization)の研究としては、国内トップの実績を誇っています。特に、ピロリ菌感染した細胞からDNAメチル化を解析する、またエピゲノムの異常を見つけるための手技という観点では、世界的にもトップレベルの研究を行っています。
また、正常な細胞を計測する解析技術の開発も行っています。正常に見える細胞から、エピゲノムやゲノムの異常を見つける研究は、今、とてもホットな領域となっていて、世界中で多くの研究者が研究に取り組んでいます。その中でも、私たちの研究室が解析した方法「エコセック」は、費用が従来の解析方法に比べ安価なことを特徴とするなど、より臨床に近い研究を目指しています。
単科大学としてのフットワークの軽さと独自性が、研究環境としての魅力。
エピゲノム創薬研究室にて世界レベルでみても最新のがん研究が行われているように、本学の各研究室では高度な医学、薬学の研究が行われています。研究者としての好奇心や探究心を世界中の誰にも負けないというレベルで満たされるとともに、自分の興味のためだけでなく、周りの人のために研究ができる場所であることは、星薬のとても大きな魅力です。
また、本学は薬学の単科大学ですが、多くの病院や研究機関との共同研究が可能です。実際にエピゲノム創薬研究室の“前向き研究”も、日本全国の大学、医学部の先生、そして20施設を超える医療機関に協力いただいています。病院附属でないことが研究の足枷になることはなく、逆に、単科大学としてのフットワークの軽さと独自性を生かした共同研究が進められます。
最後に、学長である牛島先生はアジアから世界最先端の研究を発信しようという意気込みを持っています。そうしたエネルギーが学内の研究室に波及し、これから多くの世界レベルの論文が生まれるのではないでしょうか。