当研究室では、データサイエンスの基礎をなす統計学や情報科学を用いて、医療や医薬品、医療機器開発、ヘルスケア、医療政策など医療の領域における幅広い課題を解決することを目的としています。
AIやビッグデータなどデータサイエンスの進歩により、創薬研究は従来の手法からデータ駆動型のアプローチへと変革しています。これからの時代は、従来の実践的な創薬研究とデータサイエンスを駆使した理論的な創薬研究の両輪で進めることが求められ、当研究室でもそれを実践しています。
また、経営学や技術経営学的視点から製薬業界や社会で起こっている様々な事象を解明しようしています。
『日本の抗がん剤治療の費用対効果分析により、抗がん剤治療のコストと効果の関係性を定量的に解明』
乳がんにおいては薬価改定の影響を加味した場合であっても近年承認された薬剤のICER(増分費用効果比)が高いこと、また従来薬よりもより新しい抗体薬、分子標的薬のICERが高いことから、医薬品のイノベーションはその価値に見合って評価されていることを定量的に示しました。
『コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の感染経路と対策に関するシステム・ダイナミクス・モデル解析』
日本におけるCOVID-19の感染伝搬率を含む全体の把握、入国者(受入れ旅行者)の隔離と居住者の自宅待機の方針と実践の有効性を示しました。さらに、2020年のCOVID-19の世界的な流行期において、日本が行った段階的、そしてフルロックダウンを行わないという限定的な行政介入の有効性を示しました。また、国民の自宅待機による飲食店の来店やオンライン口コミといった経済指標への悪影響が限定的であることを示し、新型感染症流行下での長期的な対策として、日本が採用した穏やかで継続的な介入の方が優れていることを示唆しました。これにより、将来の感染症の脅威に対する社会的レジリエンスをどのように発展させるかについての新たな知見を提供しました。
『希少疾患治療薬の効果的なグローバル開発戦略に関する研究』
世界にある約7,000の希少疾患のうち、95%の疾患では未だ有効な治療薬が存在しません。また、国内では海外既承認薬が未開発/未承認といったドラッグラグ及びドラッグロスの問題が存在します。その背景には、低い疾患認知度と診断率、高い開発コスト及び低い収益性があり、薬事・医療制度に至るまで様々な開発上のハードルに対して必ずしも従来のR&D戦略が有効でないことがあります。そこで、希少疾患治療薬に対する緊急かつ高いアンメットニーズに対応すべく、国内及びグローバルの両面からドラッグロス/ドラッグラグ及び開発期間に関連するR&D戦略とその背景要因を分析しています。
『研究開発型企業のライフサイクルとイノベーションに関する研究』
スマートフォンやスマートウォッチ、スマートウェアが一般に普及し、急速に個々人の行動情報が共有化されるようになっている現代において、これらの情報を活用して個々人の労働生産性や安全性、QOL(Quality of Life)、ウェルビーイングなどの新しい指標を創造することを目的に研究を行っています。
・建設現場、廃棄物処理施設等に従事する人の生産性向上や安心安全に資するHRM(Human Resource Management)研究
・医療行為に対しての費用対効果を経済的に評価する技法の一つであるQALY(Quality-adjusted life year、質調整生存年)を算出するためのQOLにスマートデバイスによる行動情報を反映します。
・人間のwell-being、すなわち幸福(な状態)や健康(な状態)をスマートデバイス等のセンサーによって定量化します。
これからの時代、薬学や医療の分野に限らず、様々な業界でデータサイエンスは基礎スキルとして求められることになるでしょう。当研究室においてデータサイエンスを身に着け、どのような業界においてもデータや情報に惑わされず正しく扱い、社会への還元を意識し、社会的イノベーションに貢献できる、そのような人材育成を目指しています。