少子高齢化により、小児医療環境の整備が望まれる一方、高齢者の疾病はますます複雑化しています。そのような臨床のニーズに応えるために医療技術は飛躍的に高度化しており、また小児や高齢者に適応できる医薬品の重要性は高まっています。しかしながら、気の遠くなるような数の試行錯誤を経て多くの候補化合物の中から選りすぐられた新薬の候補でさえも、原薬そのものでは患者さんの治療に使用することはできません。医薬品を臨床の現場で治療に役立てるためには、その医薬品の性質や用量を勘案して、剤形を選択し効果を最適化する方法が必要です。つまり、医薬品の原薬は「製剤」になって初めて治療に貢献できる手段になります。
「製剤設計学研究室」では、医薬品と患者さんの架け橋となる「製剤」に焦点をあてて、治療効果を増大させる一方、副作用を減少させ、患者さんの負担を軽減しQOL(生活の質)を改善する「製剤設計」に挑戦しています。新しいアイディアを具体的な製剤にする試みには、積み重ねられた経験と的確な判断が求められます。
必要な時に、必要な場所に、必要な量を送り込む薬物送達法(Drug Delivery System, DDS)の基本概念に基づいて、難吸収性薬物の吸収性改善や難溶性薬物の溶解性改善といった製剤技術の開発、新たな投与経路としての経粘膜吸収の開拓を通して、小児や高齢者にも適したバリアフリーな製剤開発に取り組んでいます。また、外用剤や経皮吸収型製剤の開発への取り組みを発展させて、化粧料の開発に役立つ基盤情報の確立にも目を向けています。これらの研究のなかには、研究室単独あるいは学内の協同実験のみならず、関連する企業と共同で進めているものがいくつもあります。また、開発する製剤の有効性や作用機構解明の手段として、高輝度光科学研究センターや高エネルギー加速器研究機構といった最先端の科学技術を提供する学外の大型研究施設を活用することで、これまでになかった新しい知見も数多く得られています。
物理薬剤学、製剤学、さらに医薬品の生産から規制に関する分野まで幅広く理解することを目標にします。また、新しい製剤開発に結び付く基礎知識の習得とともに、学んだ知識を応用して新しい医療の時代を拓く製剤の開発に臨む人材の育成を目指します。