エピゲノム創薬研究室では、がんが遺伝子の塩基配列の変化を伴わずに発生する仕組み(エピジェネティックな発がん機構)やその実体(がんエピゲノム)の研究、そして、その仕組みをがんの予防・診断・治療に活用する研究を行っています。
がんを診る
- エピジェネティックな発がんの素地とリスク診断
エピジェネティクスの本態であるDNAメチル化は、慢性炎症などによって異常に増加してしまうことがあります。この異常はがんが発生する以前から正常な細胞に蓄積しています。この蓄積量を測定すると、がんに罹るリスクを予測できます。現在、全国で1,000万人にもなるピロリ菌除菌を行った健康な方の胃がんリスク診断を実用化するために、全国1,800人の方にご協力頂いて前向き研究を行っています。
- 新しいがん治療効果予測マーカーの同定と作動機構の解明
最先端のエピゲノム解析によって、手術前にHER2陽性乳がんの完治が予測できるマーカーやPARP阻害剤の効果が予測できるマーカーなどを同定しています。より効果的ながん治療を開発するために、これらのマーカーがなぜ有用なのかの仕組みも研究しています。
がんを防ぐ
- 慢性炎症によるエピジェネティックな発がん機構の解明とがん予防への応用
ピロリ菌感染などによる慢性炎症ががんを誘発することはよく知られています。その仕組みとしてエピジェネティック異常を引き起こすことが重要であること、また、エピジェネティック異常が誘発される仕組みを研究しています。また、エピジェネティック異常を抑制すると慢性炎症に伴うがんが予防できることをマウスモデルで証明できたので、ヒトでも利用可能な予防法の開発を進めています。
がんを治す
- エピジェネティック治療の開発
DNAメチル化異常を取り除く治療は血液腫瘍では既に使用されています。この治療を固形腫瘍に応用するために、DNA脱メチル化剤による抗がん剤や分化誘導剤の増強効果を証明してきました。企業との共同研究によって、現在使われている薬よりも毒性が低いDNA脱メチル化剤を開発しました。また、がん細胞以外の周辺細胞もエピジェネティック薬の標的として重要であることを明らかにし、がん組織全体の正常化によるがん治療も試みています。
- DNAメチル化合成致死創薬の開発
合成致死を利用したがん治療は、特異的にがん細胞を攻撃できるので副作用が少ないと考えられています。合成致死の起始遺伝子(機能的補完を示す2つの遺伝子のうち既に不活化されているもの)としてDNAメチル化された遺伝子も重要であることに着想し、DNAメチル化された起始遺伝子と合成致死となる新たな治療標的遺伝子を探索し、創薬開発を行っています。