タンパク質を切断するプロテアーゼ、核酸を切断するヌクレアーゼなどの酵素は、様々な疾患の治療標的として注目されています。私たちは第3の生命鎖である糖鎖の切断酵素「ヘパラナーゼ」に着目しています。
ヘパラン硫酸・ヘパリンという糖鎖は、硫酸基に由来する強いマイナス電荷をもつ生体高分子です。この特別な糖鎖は、基底膜成分として上皮細胞層を支持する、細胞表層を覆い生理活性物質からウイルス・微生物に至るまで様々なものを見分けて結合または排除し、さらに細胞内にシグナルを伝える、炎症やアレルギーに関わる生理活性物質を貯蔵する、など様々なかたちで生体の恒常性を支えています。基底膜ヘパラン硫酸を分解して癌細胞の浸潤と転移を進行させる鍵分子として、この糖鎖の切断酵素「ヘパラナーゼ」が今注目されています。私たちは、糖鎖とその切断という新たな視点から、癌転移・炎症性疾患・アレルギー疾患・感染症の進行を捉えなおすとともに、これらの疾患の治療効果を高めることを目標に、ヘパラナーゼ阻害物質を広く探索しています。
細胞周期の制御を担うタンパク質であるp57Kip2は、各種リン酸化酵素の阻害をすることで増殖のブレーキ役を担います。p57Kip2の発現量の低下は、逆に細胞周期の速度を上げることで増殖能が高まり細胞のがん化を引き起こしてしまいます。近年の分子生物学手法から、p57Kip2の発現異常が胎盤形成や発生時の各種器官形成異常を引き起こし、母体の代謝疾患を誘発することが分かってきました。発生時の母体や胎児(新生児)の各種疾病の予防策の提案を目的に、分子的機序と細胞外へ放出される物質の探索・同定を行っています。 またPin1は細胞周期を速める酵素で、特にリン酸化タンパク質を基質とする唯一のプロリン異性化酵素です。Pin1活性が高まると細胞周期促進因子の一つであるサイクリンDなどの安定化を介して乳がんを引き起こすことから、乳がん治療の分子標的として注目されています。Pin1活性は、非アルコール性肝線維症(NASH)の発症に関与します。NASHは、Ⅱ型糖尿病の危険因子であるにも関わらず有効な治療法が無いため、予防策の確立が求められています。NASH予防を目的にPin1阻害作用を有する食品成分の探索を行っています。