多くの製薬会社において、創薬化学研究者の採用の基準の1つとして、天然有機化合物の全合成研究の経験を挙げています。企業での創薬化学研究においては、自らデザインした医薬品候補化合物を自在かつ迅速に合成する必要があります。そのためには、多様で複雑な有機合成反応を利用する天然有機化合物の合成研究を行い、有機合成反応の知識・ノウハウを吸収することが最も効果的です。多様で複雑な有機合成反応の知識・ノウハウは、近年多く取り組まれるようになった、新しい分野の合成研究に柔軟に対応するためにも大きな力となります。
当研究室では、短工程・高収率な合成経路による天然有機化合物の全合成研究に取り組んでいます。製薬会社での医薬品の原薬合成経路には、短工程・高収率であることが求められます。また、探索段階の合成研究においても、多様な誘導体合成に適用可能な、フレキシブル、かつ短工程・高収率な合成経路であることが、研究全体のスピードアップに寄与します。短工程・高収率な合成経路の開発に学生時代から取り組むことで、創薬化学研究者としての能力を高めることができます。
多様な有機合成反応に取り組むことで、薬剤師国家試験の化学系設問の効果的対策となるのはもちろん、OSCE試験における散剤・水剤取り扱い手技の習得にも大きな効果があります。
企業の創薬においては利益を優先させるため、ごく少数の特異な疾患にり患した人を治療する薬剤は、多くの場合開発されません。教育と研究を使命とするアカデミアが取り組むべき創薬研究の1つとして、治療薬の存在しない疾患の治療薬の開発を挙げることができます。当研究室では、製薬会社での知識・経験を生かし、創薬化学研究に取り組んでいます。本研究の知識・経験を研究室全体で共有し、創薬化学研究者の育成に役立てています。
もちろん薬剤師を目指すにあたっても、化学構造変換に伴い活性が変化してゆくのを観察することで、医薬品に対する理解をより深めることができます。
このような研究に真摯に取り組むことで、考える能力や多様なスキルの向上に対する効果をもたらすだけでなく、努力して得た結果は、研究者以外での製薬企業等への就職におけるアピールとしても威力を発揮します。