人類は誕生以来、近代医学が発展する以前、人々は草根木皮を薬として用いてきました。生薬学・天然物化学は言わば薬学の原点にあたります。臨床で使用されている薬の多くは天然物由来であることはご存知でしょうか。漢方薬は数種類の生薬で構成されている医薬品で、解熱剤や胃腸薬などの一般医薬品もまた天然由来の化合物がもととなっています。天然の動植物の化学成分で好ましい作用を持った物質の改良やそれらをモデルとした全く新しい化合物の合成により、現在、優れた医療品が多数開発されています。
私たちの研究室では、植物を起源とする様々な素材から新しい薬を探す研究を行っています(医薬リード化合物の探索)。世界中から集めた生薬、伝承薬、未利用植物資源から癌やエイズ、マラリア、認知症など、社会的に問題となっている病気の予防や治療に役立つ薬や生体機能の解明に役立つ薬を探しています。さらに、日本人の80%が健康に不安を抱いて機能性食品に興味を持ち、実際に40%の人が機能性食品を利用していることから、生活習慣病の予防や改善に有用なハーブ、サプリメントのスクリーニングや薬効解明なども行い、含有成分の作用を明らかにすることで、新たな治療薬やサプリメントの開発を狙っています。
一方、漢方薬の原料である生薬は原料植物が正しく、しかも品質が良くないと薬効を発揮しません。私たちは薬用植物園を活用し、原植物を導入して栽培を行い原植物の確保とその特質把握などに努めています。漢方原料の生薬について、漢方薬の科学的裏付けを目標に研究も行っています。
これまでの研究で、様々な植物資源より抗がん剤の候補となる物質や、細胞の情報伝達の機能を解明するツールとなる物質を発見しています。最近では、東南アジアでの未利用植物の資源調査を行い、現地の研究機関、大学との共同研究により特異な化学構造や興味深い生物活性を示す新しい物質を発見しています。本研究室では自然界に眠る未知の財宝「医薬リード化合物」を探求するというロマンあふれるテーマに取り組んでいるのです。