重篤なストレスは、不安障害発症の要因となりますが、現在、この疾患に対する有効な治療薬はありません。これまでの多くの研究は、ストレス誘発性不安機構を解明してきましたが、ストレス回復の仕組みについてはほとんど明らかではありません。
我々の身体には本来、不調を元に戻し、速やかに環境適応できる自己回復機能が備わっています。例えば、急性ストレッサーに曝された直後では、我々は不安が高まりますが、時間経過と共に、落ち込んだ気分は自己回復します。一方で、変化した気分がそのまま維持され回復しない場合は、ストレス性疾患を呈します。我々は、オプトジェネティクス、光ファイバーフォトメトリー、パッチクランプ、DREADD システム、コンディショナルノックダウン、マイクロダイアリシス、蛍光 in situ ハイブリダイゼーション、動物行動解析などを用いて、「ストレス自己回復機能」の分子メカニズムを解明し、この作用を増強する新たなストレス性不安障害治療戦略の開発を目指します。がん治療が、「免疫」という我々が本来備える治癒力を活用することで革命的転換を迎えたように、我々はストレス性不安障害に対して、「ストレス自己回復機構」という生得的な回復力を活用するという全く新しい視点での治療戦略を創造します。