星薬科大学の大竹史明准教授、森友紀大学院生、秋月慶乃大学院生らの研究グループは、がんなどの疾患に対する次世代の創薬として脚光を浴びている「タンパク質分解薬」の効果を向上させる新原理を発見し、7月2日(日本時間)に英国科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に発表しました。
【研究成果のポイント】
【概要】
星薬科大学 先端生命科学研究所の大竹史明准教授(責任著者)、森友紀さん(薬学研究科修士2年:筆頭著者)、秋月慶乃さん(薬学研究科博士1年:筆頭著者)、本田陸斗さん (薬学研究科修士1年)、高尾美優さん (薬学部創薬科学科4年)は、星薬科大学の服部奈緒子特任准教授(現・群馬大教授)、牛島俊和学長、東京大学の佐伯泰教授、村田茂穂教授らとの共同研究により、がんなどの疾患の原因となるタンパク質を細胞内から取り除く薬剤「タンパク質分解薬」の効果を高める新たな原理を世界で初めて発見しました。
「標的タンパク質分解」注1)は、がんなどの疾患の原因タンパク質を細胞内で分解する創薬技術です。従来の方法では標的にできなかったタンパク質を標的にできるため、医療を革新する画期的な創薬コンセプトとして脚光を浴びています。乳がんや前立腺がんなどのがん治療薬の臨床試験が進められるなど、現在大きな注目を集めています。しかし、この技術を幅広い疾患に実用化するためには、さらなる分解効率の向上が必要です。
今回研究グループは、タンパク質分解薬注1)の作用を促進する化合物を探索しました。その結果、タンパク質分解の各ステップに対して抑制的に働くタンパク質が明らかになり、それらに対する既知の阻害薬を事前に投与することで、分解誘導の効果を向上できることを見出しました。そのメカニズムとして、ある種の阻害薬は、タンパク質分解薬の標的の一つである「BRD4注2)(がん細胞の増殖に重要な役割を果たすタンパク質)」のクロマチン注2)への結合を弱め、分解に必要なタンパク質複合体の形成を促進することをつきとめました。さらにBRD4の分解が促進されることで、がん細胞のアポトーシス(細胞死)が促進されることも明らかになりました。
この結果は、標的タンパク質が細胞内で通常時に結合しているパートナータンパク質との結合を阻害することで、分解に必要な必要な複合体形成を促し、分解を促進できる、という一般的な新原理を示唆しています。
これまで、より活性の強いタンパク質分解薬の開発が世界的に行われてきましたが、本研究は、標的タンパク質が分解されやすい細胞内の状況を整えることによって、標的タンパク質分解自体の効果を向上させることをはじめて示しました。今回示された道筋を応用して、同様の手法によって「タンパク質分解の促進化合物」を見出すことができれば、がんなどに対する分解薬の効果を高効率化・高精度化していくことが期待されます。
研究成果は2024年7月2日(日本時間)に英国科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』オンライン版に掲載されます。
注1)標的タンパク質分解誘導薬
特定の疾患原因タンパク質を分解することで細胞内から取り除く薬剤です。疾患原因タンパク質に結合する薬剤と、ユビキチン付加酵素に結合する薬剤とを連結させたハイブリッド型(双頭型)の化合物が代表例であり、PROTACと呼ばれています。疾患原因タンパク質とユビキチン付加酵素の両者に結合することにより、これらを近接させ、強制的にユビキチン化を引きおこして分解を誘導します。現在、乳がん、前立腺がんに対する分解誘導剤が臨床試験に入っています。このような創薬コンセプトは「標的タンパク質分解誘導法」と呼ばれています。
注2)BRD4
クロマチンに結合して、遺伝子発現に必要な複合体を呼び込むタンパク質。BRD4の機能を阻害すると、遺伝子発現が行えなくなり、がん細胞のアポトーシス(細胞死の一種)を引きおこす。そのため抗がんターゲットとして注目されている。クロマチンとは、ゲノムDNAがヒストンと呼ばれるタンパク質に巻き付けられた構造で、クロマチンに様々なタンパク質が結合することで特定の遺伝子からの転写(遺伝子発現)が制御されている。
【論文タイトル】
Intrinsic signaling pathways modulate targeted protein degradation
細胞内シグナル伝達経路が標的タンパク質分解を調節する
【掲載誌】
英国科学誌『Nature Communications』
doi; 10.1038/s41467-024-49519-z
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
星薬科大学先端生命科学研究所
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星薬科大学イノベーションセンター
部長 吉田秀保
E-mail:h-yoshida[at]hoshi.ac.jp