日本薬学会第 137年会 学生優秀発表賞を受賞して
薬剤学教室 修士課程2年 横川 雅光
日本薬学会第 137 年会 (2017年3月24~27日) におきまして、学生優秀発表賞を受賞致しました。受賞の発表タイトルは「ゼリー製剤の処方設計を目的とした機械的強度と薬物放出挙動との因果関係の解明」です。このような栄誉ある賞を頂けて非常に光栄です。以下に研究の概要を紹介させていただきます。
近年、高齢患者や小児の服用アドヒアランスの改善や、苦みのマスキングを目的として、ゼリー剤の開発が検討されています。日本薬局方第16改訂において、経口ゼリー剤が新たな剤形として製剤総則に収載されるなど、ゼリー剤は、近年新しい剤形の1つとして認識され始めました。臨床現場からの関心も高く、多くの医薬品のゼリー剤を開発することは、患者さんのQOL改善にも大変有用と考えます。しかしながら、ゼリー剤の製剤特性に焦点を絞った報告は少なく、標準処方が確立されていないことから、開発効率が良いとはいえない現状です。
経口製剤において、製剤から薬物が放出されること、すなわち、薬物溶出性は最も重要な製剤特性です。すでに、錠剤が市販されている医薬品のゼリー剤を開発する場合には、錠剤と類似した薬物溶出性を有する必要があります。これまで錠剤を使用してきた患者さんが、ゼリー剤に変更した際に、同じような血中濃度推移を得られなくなると、治療効果に悪い影響が生じるためです。さらに、現在市販されているゼリー剤は、比較的柔らかいうえ、ゼリーから水がでてしまう「離水」が問題として多数報告されています。
そこで、アセトアミノフェンを主薬として調製したモデルゼリー剤を調製し、錠剤と類似した薬物溶出性を有しつつ、十分な機械的強度と保水性を併せ持つゼリー剤の処方設計を行いました。本研究では、3種のゼリー基剤の配合比を変化させて得た10種類のゼリー剤について、非線形応答曲面法 (RSM-S) から試料の機械的強度と薬物溶出挙動の関係を可視化することを目的といたしました。
実験の結果、薬物溶出性は、ゼリー剤の固さの指標である弾性率に対して負の相関が認められました。一方、破断応力や破断点のひずみ量との間には目立った関係はありませんでした。次に、錠剤とゼリー剤の薬物溶出性の類似度 (Similarity factor, Sf) をf2関数より算出し、弾性率とSfが同時に最大となる最適処方を探索しました。その結果、最適処方のゼリー剤で得られると予想された薬物溶出性の予測値と、実際に調製したゼリー剤で実験を行って得られた実測値は、ほぼ同程度となりRSM-Sによる予測は、高い信頼性が認められました。さらに、ゼリー剤に水を浸入させ、その浸入挙動について核磁気共鳴画像法 により経時的に観察したところ、薬物溶出性が低い、つまり、ゼリー剤から薬物が放出されにくいゼリー剤では、水の浸入速度が遅い結果が示されました。今後の実験では、ゼリー基剤と主薬の相互作用が与える製剤特性への影響について明確化し、ゼリー剤設計における有益な基盤情報の構築を試みる予定です。
最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導、ご鞭撻を賜りました薬剤学教室 小幡誉子教授、城西大学 髙山幸三教授、富山大学 大貫義則教授をはじめご協力頂きました皆様に心より御礼申し上げます。