日本薬学会第137年会 学生優秀発表賞を受賞して
薬動学教室 博士課程4年 坪田結香
この度、日本薬学会第137年会(2017年3月24-27日)におきまして、学生優秀発表賞を受賞致しました。このような栄誉ある賞を頂きまして大変光栄に思っております。受賞演題名は「イリノテカン誘発遅発性下痢モデルにおける大腸aquaporinsの変化」です。以下に、研究概要を紹介させていただきます。
日本人ががんになる確率は二人に一人といわれており、がんは身近な病気となっています。がんの治療には抗がん剤が用いられますが、重篤な副作用を発症する場合も多く、患者の生活の質を低下させることから、その緩和が重要な課題になっています。イリノテカンは大腸がん、肺がんなど様々ながんに対して用いられる抗がん剤の一つです。強い抗がん作用を有する一方で、副作用として重篤な下痢も発症します。イリノテカンは生体内でSN-38とよばれる活性代謝物となり、これが腸を傷つけるため下痢が発症すると考えられていますが、その全容は解明されていません。本研究では、イリノテカンの下痢に対する新しい予防法や治療法を見出すことを目的に、便の水分量を調節している大腸の水チャネル「アクアポリン(aquaporins; AQPs)」に着目し、研究を行いました。
ラットにイリノテカンを投与すると、激しい下痢が確認できました。この時、大腸におけるAQP1、AQP3、AQP4およびAQP8のmRNA発現量はイリノテカンを投与していないラットよりも低下していました。特に、便と直接接触する上皮細胞におけるAQP3の発現量は、タンパク質レベルにおいても低下していることがわかりました。
本研究の結果から、イリノテカンによって下痢が発症した際には、大腸AQP3の発現量が低下するとともに、大腸が障害を受けていることがわかりました。すなわち、生理的条件下の大腸では、水はAQP3を通って吸収されていますが、イリノテカン投与時にはAQP3の発現量が低下したため、水の吸収が抑制され、下痢が引き起こされている可能性が考えられました。したがって、大腸のAQP3を増加させる物質が、イリノテカンによる下痢の予防や治療に有効である可能性が考えられました。今後、AQP3の発現低下メカニズムを解析することで、イリノテカンの下痢に対する新しい治療方法が発見できるものと考えております。
最後に、本研究を遂行するにあたりまして、多大なる御指導、御鞭撻を賜りました食品動態学研究室の杉山清特任教授、薬動学教室の五十嵐信智講師、生命科学先導研究センターの今理紗子特任助教に心より御礼申し上げます。また、御協力くださいました薬動学教室の教室員の皆様に深く感謝致します。