日本薬学会第 137 年会 学生優秀発表賞を受賞して
衛生化学教室4年 山王 豊盛
日本薬学会第 137 年会 (2017 年3月24~27日) で、学生優秀発表賞を受賞致しました。受賞の発表タイトルは「HL60細胞分化における核内プロテインキナーゼAに関する研究」です。このような素晴らしい賞を賜りまして非常に光栄です。以下に研究の概要を簡単に紹介させていただきます。
ビタミンAの活性型であるレチノイン酸 (RA) は、前骨髄球性白血病 (HL60) 細胞を顆粒球様細胞に分化誘導する働きがあり、急性前骨髄性白血病 (acute promyelocytic leukemia: APL) の治療薬として使われています。しかしながら、RA処理による細胞応答が非常に速やかに行われることから、RAの作用機構には不明な点が残されています。一方、protein kinase A (PKA) はcyclic adenosine mono phosphate (cAMP) 依存性のリン酸化酵素であり、それぞれ 2 つの調節サブユニット (R) と触媒サブユニット (C) からなる 4 量体で構成されています。以前の研究において、HL60細胞のRA処理により、PKAの調節サブユニット (PKA RIIα) がレチノイル化 (RA によるタンパク質のアシル化)されることが明らかとなっています。そこで本研究では、 PKA RIIα のレチノイル化の役割を明らかにするため、RAの核内PKA に及ぼす影響を検討しました。即ち、RA処理したHL60細胞における核内タンパク質のリン酸化の変化、PKA RIIα と PKAの触媒サブユニット (PKA Cα) の細胞内局在の変化、PKA によりリン酸化される核内タンパク質について研究を行いました。
未処理HL60細胞においては、PKA RIIα、PKA Cα タンパク質は共に細胞質内に局在化していましたが、RA 処理により核全体に分布していました。また、特異的な抗体を用いた免疫染色法で細胞質・核内のPKA RIIα、PKA Cαを検出したところ、RA処理により両タンパク質は核画分で共に増加しました。次に、リン酸化タンパク質検出液で核内タンパク質を染色したところ、RA処理により核内リン酸化タンパク質は増加していました。さらに、PKAによってリン酸化されたタンパク質が検出できる抗体で核内タンパク質に対し免疫染色法を行ったところ、RA処理によりPKAリン酸化タンパク質は顕著に増加し、PKA 阻害剤の前処理で減少しました。以上の結果から、RA処理で生じたレチノイル化PKA RIIαが核内でのPKAの活性化を促し、核内タンパク質のリン酸化を促進することで、顆粒球様細胞への分化を誘導する可能性が示唆されました。本知見は、生体に多種多様な良い作用を示すRAの新規作用機序の解明、及び、新薬開発においても重要であります。
最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導、ご鞭撻を賜りました衛生化学教室 高橋典子教授、今井正彦助教、山崎正博准教授、長谷川晋也助教をはじめご協力頂きました皆様に心より御礼申し上げます。