ANSYS Convergence 2017 Student Poster Contest 奨励賞を受賞して
薬剤学教室 修士課程1年
佐藤翼
この度、ANSYS Convergence 2017 Student Poster Contest (2017年10月5日) におきまして、奨励賞を受賞致しました。受賞の発表タイトルは「割線錠分割特性の予測を目的としたFEMの応用」です。このような栄誉ある賞を頂けて非常に光栄です。以下に研究の概要を紹介させていただきます。
錠剤中に含まれる有効成分の量や、患者さんの疾患の状況に柔軟に対応するために、錠剤を2片に分割して使用することがあります。このような目的で用いられる錠剤は「割線錠」とよばれ、錠剤にV字型の溝(割線)を施すことで製造されています。均一に割れやすいこと(分割均一性)や錠剤の固さ(硬度)は、割線錠の重要品質特性(CQA)ですが、これら特性は粉体物性や錠剤形状の影響を受けると考えらます。弱い力でも正確に分割できる割線錠の製造には、CQAに影響する複数の要因を可能な限り多く考慮する必要があり、効率的で迅速な割線錠の設計が求められます。そこで、コンピュータシミュレーションの一つである有限要素法(FEM)に着目し、割線錠のCQA予測を試みました。FEMは実験が困難な現象を予測する技術であり、錠剤内に発生する様々な力の可視化を可能とします。
割線錠の望ましい特性として、錠剤が適切な固さを持つこと、弱い力で分割できること、さらに均等に分割できることが挙げられます。これら特性を評価するためには、製造に際して加える力、錠剤中に残る力、また錠剤が壊れるときに最初にき裂が発生する箇所を知る必要があります。き裂は、錠剤に外から力を加えたとき、内部に発生する力が大きい領域において発生しやすいことはすでに分かっていました。そのような領域はFEMから推測することができますが、き裂発生に必要な応力の境界の値までは推測できません。そこで、あらたに破壊力学の理論であるグリフィス・オロワン・アーウィンの条件を導入して、き裂発生に必要な応力の境界の値を推算しました。グリフィス・オロワン・アーウィンの条件によると、表面自由エネルギーとヤング率が高い粉体ほど応力の境界の値が高くなり、特定の箇所でき裂が発生しやすくなると推測されます。実際に、複数の粉体について表面自由エネルギーとヤング率を測定して得られたFEMの結果に、グリフィス・オロワン・アーウィンの条件を用いたところ、これまでの先行研究をはるかに上回る高い精度で錠剤の硬度や分割均一性を予測することができました。今後の実験では、硬度や分割均一性に大きな影響を与える粉体物性、錠剤形状及び製造工程を探索し、錠剤内におけるき裂発生のメカニズム解明を試みて、実際の製剤設計に貢献し得る新しいシミュレーション手法を開発していきたいと考えています。
最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導、ご鞭撻を賜りました薬剤学教室 小幡誉子教授、城西大学 髙山幸三教授をはじめご協力頂きました皆様に心より御礼申し上げます。