日本薬学会第138年会 学生優秀発表賞を受賞して
微生物学研究室 博士課程4年
小鷹篤
日本薬学会第138年会(2018年3月25-28日:金沢)におきまして、学生優秀発表賞を受賞致しました。演題名は「9-(E,Z)-HODEによるマウスリンパ腫細胞のG2/M期停止を伴うアポトーシスの誘導」です。栄誉ある賞を頂きまして大変光栄に思います。以下に受賞の対象となりました研究概要を紹介させていただきます。
多糖体であるβ-グルカン(β-1,3グルカン)は植物や菌類など自然界に広く分布しています。その中でもシイタケやアガリクスのβ-グルカンは強力な免疫賦活作用や制癌作用が注目され、医薬品開発が始まりました。しかしカワラタケ菌糸体やしいたけ抽出エキスから単離されたβ-グルカンは抗癌剤として開発されたものの、単独での抗癌作用は否定され、補助薬として承認されました。
近年、北里大学微生物薬品製造学教室によって、キノコ由来の活性物質はβ-グルカン本体だけではなく、らせん構造のβ-グルカン内に取り込まれている疎水性低分子物質にも活性があると推定され、脂肪酸であるHODE (Hydroxyoctadecadienoic Acid)が、活性物質として単離されました。生体内ではリノール酸の酸化物として存在し、多くの立体異性体があることも知られています。
今回の研究ではマウスリンパ腫細胞株(EL4細胞)に対して、9-HODEの複数の異性体を添加しスクリーニングした結果、9-(E,Z)-HODEのみが濃度依存的に細胞増殖阻害効果を示しました。そこで培養後のEL4細胞を、初期アポトーシス細胞に結合するAnnexin-V-FITCと後期アポトーシス細胞のDNAに結合するPI(ヨウ化プロピジウム)にて蛍光標識し、フローサイトメーターにて細胞を測定した結果、初期および後期アポトーシスが誘導されていることが分かりました。さらに、PI染色にて細胞内のDNA含有量を測定することで細胞周期を解析した結果、G2/M期に留まる細胞の存在率が増加していたことが判明しました。医薬品とされたβ-グルカンの効果発現に、腫瘍細胞の種類によって差異があったことの原因の1つとして、HODEの異性体の混入が推測されました。異性体の画分ごとにターゲット分子が何なのか、その探索によって医薬品としての価値が大きく変わる可能性を秘めています。
本研究におきまして多大なるご指導、ご鞭撻を賜りました微生物学研究室の辻勉教授、築地信准教授に心より御礼申し上げます。またご協力いただきました奥輝明講師をはじめとする微生物学研究室の皆様、生化学教室 東伸昭教授、高橋勝彦准教授に感謝申し上げます。
最後になりますが、細胞、試料をご提供いただきました理化学研究所 藤井眞一郎先生、北里大学 供田洋教授、安原義客員教授、社会人博士課程にご理解をいただいている望星薬局の皆様に御礼申し上げます。