日本薬学会第142年会 学生優秀発表賞を受賞して
薬学科4年 機能形態学研究室 長田 友恵
日本薬学会第142年会(2022年3月25〜28日)にて、学生優秀発表賞を受賞致しました。受賞の発表タイトルは「アデニン誘発腎不全ラット摘出上腸間膜動脈における弛緩反応」です。このような素晴らしい賞を頂きまして、非常に光栄に思います。以下に研究の概要を紹介させていただきます。
慢性腎臓病は、世界全体で患者数が年々増加しており、日本においても国民病と言われるほど危惧される疾患の一つであります。さらに腎臓病は高血圧症や糖尿病といった生活習慣病との併発や脳心血管疾患の危険因子ともなり得ることから、重症化や合併症の予防、進行抑制が重要な課題となっています。これらの疾患における合併症の発症・進展には、血管の内皮細胞機能障害が重要であり、糖尿病や高血圧時には血管機能の維持に重要な血管収縮因子や弛緩因子のバランス異常が生じることが知られております。しかし腎機能不全時における血管機能の異常については、未だ明らかとなっておりません。
そのため今回はアデニン誘発腎障害ラットの上腸間膜動脈を用いて、血管反応を検討いたしました。アデニン誘発腎障害ラットは、処置したアデニンが腎臓の尿細管に結晶として沈着することで腎機能不全となるモデルとして知られております。また上腸間膜動脈は、腎臓病と関連のある糖尿病や高血圧症、脂質異常症といった病態下にて、血管機能の異常をきたすことが、当研究室のこれまでの研究でも明らかとなっておりました。そこでアデニン経口投与により腎障害を引き起こしたラットの上腸間膜動脈を摘出し、血管弛緩を誘発するアセチルコリン (ACh)、ニトロプルシドナトリウム (SNP) 投与による弛緩反応への影響を測定いたしました。
その結果、まずアデニン処置群において、腎障害の症状である体重変化や血圧上昇、腎臓のろ過・排泄機能低下が認められました。さらにアデニン処置群の上腸間膜動脈においてACh、SNP誘発弛緩反応共に減弱が認められました。このことからアデニン誘発腎不全状態の上腸間膜動脈において、内皮細胞を介する弛緩反応及び平滑筋細胞におけるNOによる弛緩反応が共に減弱することが明らかとなりました。
今後は、腎不全状態における血管機能障害の詳細なメカニズムや、その原因となる物質を検討し、さらにこれからの治療への発展を見据えていきたいと考えております。最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導、ご鞭撻を賜りました機能形態学研究室の小林恒雄教授、松本貴之准教授、そしてご協力くださいました、田口久美子講師をはじめとする機能形態学研究室の皆様に心より御礼申し上げます。