日本薬学会第142年会 学生優秀発表賞を受賞して
薬学科6年 薬品分析化学研究室 安部 武蔵
この度、日本薬学会第142年会(2022年3月25日~28日)で学生優秀発表賞(ポスター発表の部)を受賞いたしました。このような名誉ある賞をいただき、大変光栄です。受賞演題名は「分子インプリントポリマーとシモン反応を組み合わせた固相誘導体化法によるメタンフェタミンおよび類似物質の簡易異同識別法の検討」です。以下に研究概要を紹介させていただきます。
現在、我が国で最も乱用されている違法薬物は覚せい剤の一つであるメタンフェタミン(MA)であり、捜査現場における簡易検査にはシモン反応が用いられています。しかし、従来のシモン反応は脂肪族二級アミンの構造を持つ一部の類似化合物も陽性となり、これら偽陽性物質によって誤認鑑定を引き起こす恐れがありました。また、MAをtert-ブトキシカルボニル(t-Boc)誘導体化したt-Boc-MAが密輸される事案が報告されており、これらは従来のシモン反応では陰性となるため、鑑定をすり抜ける恐れがありました。そこで本研究では、MA、偽陽性物質およびt-Boc-MAを異同識別するために、分子インプリントポリマー(MIP)とシモン反応を組み合わせた固相誘導体化法を用いる系統的分析法を検討しました。
偽陽性物質にプロリン(Pro)、ヒドロキシプロリン(HYP)、N-メチルベンジルアミン塩酸塩(NMe-BA)およびN-イソプロピルベンジルアミン塩酸塩(NIP-BA)を選定しました。MA、各偽陽性物質およびt-Boc-MAをSupelMIP SPE-Amphetamines(MIP)に負荷し、塩基性水溶液で洗浄後、MIPにシモン試薬を加え、固相ゲルの色調を観察しました。その後、1%炭酸ナトリウム水溶液/メタノール混液(7:3)で溶出した液(第一段階溶出液)に再度シモン試薬を加え、色調の変化を観察しました。更にMIPを精製水で洗浄し、2 M塩酸をMIPに通した後、MIPを70℃の恒温槽で20分間加熱しました。その後、精製水で溶出した液(第二段階溶出液)を塩基性(pH約10)にした後、シモン試薬を加え、色調を観察しました。
その結果、ProおよびHYPは固相ゲルの色調によって、NMe-BAとNIP-BAは第一段階溶出液の色調によって、それぞれMAとの異同識別が可能となりました。また第二段階溶出液の色調でt-Boc-MAの存在の有無を確認することが可能となりました。これらの結果を基に、MAと偽陽性物質の異同識別およびt-Boc-MAの検出が可能となる系統分析法を構築しました。本研究で構築した方法を用いることで、MA検出の定性確度を向上させ、偽陽性・偽陰性物質による誤認鑑定の発生を抑制できると考えられます。最後に、本研究を行うにあたり、終始御指導、御鞭撻ならびに御校閲を賜りました薬品分析化学研究室の斉藤貢一前教授、穐山浩教授、伊藤里恵講師に厚く御礼申し上げます。また、御指導、ご協力くださいました薬品分析化学研究室の皆様に深く感謝いたします。