日本薬学会第143年会 学生優秀発表賞を受賞して
薬学科5年 薬物治療学研究室 太刀川 悠
※受賞当時(2023年3月時点)の学年
日本薬学会第143年会 (2023年3月25日~28日) にて、学生優秀発表賞を受賞致しました。受賞の発表タイトルは「Ethanol による血糖値の変化」です。このような素晴らしい賞を頂きまして、非常に光栄に思います。以下に研究の概略を紹介させていただきます。
お酒は日本で古くから文化に根づき、現代でも嗜好品として広く親しまれています。お酒はリラックス効果をもつことや良きコミュニケーションツールであると言われますが、近年では習慣的な飲酒は生活習慣病のリスクを高めることが問題視されています。お酒の主成分であるethanolは分子量46の非常に小さな分子で、生体に対し様々な効果を示し、作用点についてもいくつか報告されていますが、その作用機序にはまだ不明な点が多く存在します。これまでに、ethanolは血糖値を上昇させることが報告されていますが、ethanolによる血糖上昇作用の機序は未だ明らかになっていません。そこで本研究では、まず始めにethanolが血糖値に与える影響について検討したところ、ethanolにより血糖値が上昇することを確認しました。一般に、血糖値は全身の糖利用と肝臓での糖産生のバランスにより調節されています。Ethanolは血糖値を上昇させたことから、ethanolにより肝臓での糖産生が亢進する可能性が考えられます。そこで、ethanolによる血糖上昇作用に肝臓におけるグリコーゲン分解や糖新生と呼ばれる糖産生機構が関与するか検討しました。
その結果、肝グリコーゲン量が減少する空腹の条件下ではethanolの作用が減弱したことから、ethanolの血糖上昇作用は肝グリコーゲン分解によることが示唆されました。また、ethanolは肝臓における糖新生の律速酵素であるG6PaseおよびPEPCKのmRNAの発現を増加させることが明らかとなり、ethanolは糖新生を亢進させることで血糖値を上昇させる可能性を見出しました。このように、ethanolは肝臓における糖産生機構に作用することで血糖調節に影響を及ぼすことが明らかになりました。今後、このようなethanolが生体にもたらす影響について総合的に明らかにし、生活習慣病の予防に繋げていきたいと思います。
最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導・ご鞭撻を賜りました薬物治療学研究室の池田弘子先生、芝﨑真裕先生、米持奈央美先生に深く感謝申し上げます。また、御協力頂きました薬物治療学研究室の卒論生の皆様に心より御礼申し上げます。