第59回日本薬学会関東支部大会 優秀ポスター賞を受賞して
薬品物理化学教室 薬学部5年 田嶋 沙也佳
2015年9月12日に開催された第59回日本薬学会関東支部大会において、『計算化学を用いたCyclomaltononaose(d-CD)とコール酸類縁化合物との相互作用の解析』という演題で優秀ポスター賞をいただき、大変光栄に思っております。以下、受賞対象となりました研究を簡単にご紹介させていただきます。
微生物が産生するa-アミラーゼの仲間であるシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)でデンプンを処理すると、グルコースやマルトオリゴ糖のような鎖状糖とともに、6~百数十個のグルコース単位が環状に繋がったシクロデキストリン(CD)という物質群を産生します。このうち、グルコース単位が6、7、8個からなるa-、b-、g-CDは、底の抜けたバケツのような分子で、バケツの中に他の分子を取り込んで複合体を作り(包接複合体)、取り込んだ分子の安定性や水溶性などを改善することができます。このため、この3種のCDは現在、医薬品だけでなく、化粧品や食品などに応用されており、日本で大量に生産されています。一方、9個以上のグルコース単位からなるCD(大環状CD)類は、この20年ほどの間に性質などはある程度解明されましたが、生成量が少ないため応用には手が届いていませんでした。
このような理由から、私たちは大環状CDの生産性向上を目指して研究を進めていたところ、CGTaseを用いてCDを作るとき、コール酸類縁化合物を共存させると、9グルコース単位からなるd-CDの生成量が最大で約5倍増加することを見出しました。この原因として、d-CDが包接複合体を作る時に変形し、CGTaseによる分解を回避できたのではないかと考えました。(注:CGTaseはCDを作る酵素ですが、壊す反応も触媒してしまいます!)そこで、包接複合体形成時のd-CDの分子構造を計算化学的手法により作成し比較検討しました。その結果、d-CDの生成量増大と分子構造変化に比較的良好な関係があることが確認できました。この結果は、d-CD以外の大環状CDにおいても包接複合体を作る時にCDの分子構造を変形させるような分子を見つけることができれば生成量が増加する可能性を示唆しており、重要な知見です。
今後も大環状CD類の生産性向上を目指した研究を進めるとともに、その機構的な解明を進めていきたいと考えています。最後になりましたが、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導・ご助言を賜りました薬品物理化学教室 教授 米持悦生先生、准教授 遠藤朋宏先生、助教 古石誉之先生、助手 郡司美穂子先生、機器センター 准教授 長瀬弘昌先生に厚く御礼申し上げます。また、御協力を賜りました方々に心より感謝申し上げます。