日本薬学会第 136 年会 学生優秀発表賞を受賞して
機能形態学研究室 博士課程1年 渡邊 駿
日本薬学会第 136 年会 (2016 年3月26~28日) にて、学生優秀発表賞を受賞致しました。受賞の発表タイトルは「ラット頸動脈における 5-HT 誘発収縮反応に対する高濃度インスリンおよび 3-phosphoinositide-dependent protein kinase 1 (PDK1) 活性化薬の影響」です。このような栄誉ある賞を頂けて非常に光栄です。以下に研究の概要を紹介させていただきます。
現在、糖尿病、特に 2 型糖尿病は世界中で激増しており、糖尿病を発症すると quality of life を著しく低下させることが知られております。2 型糖尿病は糖代謝の主要な制御因子であるインスリンと深く関係しています。健康な人では常に血液中に少量のインスリンが分泌されていますが、2 型糖尿病病態下においてはインスリン抵抗性に伴う高インスリン血症が血管機能に対する異常を来たし様々な合併症を誘発することが考えられていますが、そのメカニズムについては明らかとされておりません。
PDK1 はインスリンをはじめとする成長因子による細胞内シグナル伝達機構に広く関与することが考えられています。また、phosphoinositide 3-kinase の下流に存在し細胞増殖、代謝調節などに関わっていることが報告されていますが血管機能における役割は解明されていません。5-hydroxytriptamine (5-HT; セロトニン) は強力な血管収縮因子として知られ、循環器において様々な機能調節を果たしており、糖尿病病態下において異常な反応性を示すことが当研究室のこれまでの研究や、国内外の研究によって明らかとされています。そこで、今回はインスリンおよび PDK1 活性化薬暴露による 5-HT 誘発血管収縮反応に与える影響について検討しました。その結果ですが、5-HT 誘発収縮反応はインスリンまたは PDK1 活性化薬の刺激によって増強し、血管におけるPDK1 活性上昇が5-HT誘発収縮反応を増強させる新規メカニズムを見いだしました。さらに、その収縮反応の増強は PDK1 によるミオシンフォスファターゼ活性の調節を介しているということを明らかにしました。これらの結果から、2 型糖尿病病態下における 5-HT の異常反応性には PDK1 活性上昇が関連することが考えられます。
今後は、病態における PDK1 の血管機能への影響を解析し、血管機能障害の発症・進展のメカニズム、さらに治療的側面への展開を目指していきたいと考えております。
最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導、ご鞭撻を賜りました機能形態学研究室の小林恒雄教授、松本貴之講師、そしてご協力くださいました、田口久美子助教をはじめとする機能形態学研究室の皆様に心よりお礼申し上げます。