日本薬学会第136年会 学生優秀発表賞を受賞して
薬動学教室 博士4年
(現:生命科学先導研究センター 特任助教)
今 理紗子
日本薬学会第136年会(2016年3月26~29日:横浜)にて、標記の賞を受賞いたしました。受賞演題の発表タイトルは「モルヒネ誘発性便秘症における大腸AQP3発現増加メカニズムの解析」です。以下に、研究内容の概略を紹介させていただきます。
がん性疼痛の治療に用いられるモルヒネは、強力な鎮痛作用を有する一方で、副作用として重度の便秘を引き起こします。モルヒネによる便秘は、これまで腸の蠕動運動が抑制されることにより発症するものと考えられてきましたが、私たちの教室では、大腸粘膜上皮細胞に発現する水チャネル「アクアポリン3(AQP3)」の発現量が増加することも、便秘の発症に関与していることを明らかにしました。今回、私たちは、モルヒネによる大腸AQP3の発現増加メカニズムについて解析を行いました。
解析の結果、モルヒネによる大腸AQP3の発現増加は、腸管に多く存在するセロトニンの作用であることがわかりました。さらに、セロトニンは、大腸粘膜上皮細胞に発現するセロトニントランスポーター(SERT)を介して細胞内に取り込まれることによりAQP3の発現を増加させたこともわかりました。実際に、SERTを阻害するフルオキセチンとモルヒネをラットに同時に投与すると、便秘は改善しました。本研究結果は、セロトニンの作用を調節する薬剤やSERT阻害剤がモルヒネ誘発性便秘症の新しい治療薬として有用である可能性を示しています。今後は、臨床現場に本研究結果をフィードバックしていきたいと考えております。
最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導・ご鞭撻を賜りました薬動学教室の杉山清教授、落合和准教授、五十嵐信智講師に深く感謝いたします。そして、ご協力下さいました薬動学教室の皆様に心より御礼申し上げます。