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受賞情報等
2016.05.12

近藤貴茂さん(薬理学教室 修士課程2年生)が第 89 回日本薬理学会年会 にて学生優秀発表賞を受賞しました

第 89 回日本薬理学会年会 学生優秀発表賞を受賞して

薬理学教室 修士課程2年 近藤 貴茂

 第 89 回日本薬理学会年会 (2016 年 3 月 9~11 日:横浜) にて、学生優秀発表賞を受賞しました。このような栄誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。受賞演題名は「人為的な知覚神経の活性化による疼痛刺激は血管新生を伴って腫瘍を増殖させる」です。以下に本研究の概要を紹介させていただきます。

 腫瘍の肥大化は自身の細胞のみならず、周囲の微小環境との相互作用により左右されます。近年、末梢の腫瘍の肥大化には、近傍の神経細胞との相互作用が重要であるということが報告がされています。また、がん患者において、痛みにより quality of life (QOL) の低下を伴い、患者の生存率を著しく低下させることも報告されています。そこで、本実験では「腫瘍の増悪化」と「痛み」の関連性を解明することを目的とし、人為的に知覚神経活動を活性化させ痛みを負荷した際の腫瘍増殖の変化を検討しました。抗腫瘍効果を検討するためにマウス由来肺がん細胞株である Lewis lung cancer (LLC) 細胞を神経障害性疼痛モデルに皮下移植し、担がんモデルマウスを作製しました。このマウスを用い、腫瘍増殖の変化について検討しました。結果、痛みを負荷することによりcontrolと比較して、著しい腫瘍増殖の促進が確認されました。次に、マウスの坐骨神経にヒトムスカリン M3 受容体に変異を加えた変異受容体 (hM3Dq) を発現させ、hM3Dq に特異的なリガンドであるclozapine N-oxide (CNO) を投与することで熱痛覚過敏反応が引き起こされる人工的知覚神経活性化モデルを作製しました。このマウスに LLC 細胞を皮下移植し、CNO を連投する事で、痛みを負荷した際の腫瘍増殖の変化を検討した結果、痛みを負荷することによりcontrolと比較して著しい腫瘍増殖の促進が確認されました。また、このマウスの腫瘍における血管新生を検討したところ、controlと比較して著しい血管新生の促進が確認され、さらに、このマウスの血清分画におけるサイトカイン量の変動を検討したところ、controlと比較して血管新生促進関連因子である VEGF 遊離量の有意な増加が確認されました。

 以上、本研究より、痛みによる腫瘍の増悪化は、腫瘍周囲における VEGF 遊離量の増加と腫瘍における血管新生の促進を伴って引き起こされている可能性が示唆された。この結果は、がん治療において痛みを取り除くことは、患者の QOL 向上のみならず腫瘍自体の増悪化を防ぐことも可能となることを示しているため、積極的に鎮痛薬を用いることが重要であることを示唆するエビデンスの一つになると考えております。

 最後に本研究を遂行するにあたり、多大なご指導を賜りました薬理学教室の成田 年 教授をはじめ、薬理学教室および先端生命科学研究センターの先生方に厚く御礼申し上げます。

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