日本薬学会第 136 年会 学生優秀発表賞を受賞して
薬理学研究室 薬学部6年 染谷 一貴
日本薬学会第 136 年会 (2016 年3月26~28日;横浜) にて、学生優秀発表賞を受賞致しました。受賞の発表タイトルは「神経障害性疼痛時における miRNA のバイオマーカーとしての可能性の検討」です。このような栄誉ある賞を頂けて非常に光栄です。以下に研究の概要を紹介させていただきます。
神経障害性疼痛とは、神経が何らかの形で損傷を受けた際に、その痛みの原因が取り除かれた後も痛みが持続し、またその原因を解明することが非常に困難な慢性の疾患です。治療には、Ca2∔ blocker、Na+ blocker などが使用されるものの、強力な鎮痛薬であるモルヒネに対しては時折抵抗性を示すことが知られています。神経障害性疼痛は診断や治療が困難であるため、新しい治療法の開発ならびに痛みの診断基準を明確にするための客観的なバイオマーカー探索が急務となっています。一方、miRNAは、遺伝子発現を調節し、細胞の分化や発生に関与していることが知られています。近年では、がんや精神疾患に関与していることが明らかになっており、バイオマーカーや新規治療への応用が期待されております。また、細胞からエクソサイト―シスにより放出される直径40~150nm ほどの小胞顆粒であるexosomeは、血液や唾液といった体液中に分泌されており、その小胞内に miRNA や mRNA を豊富に含んでいることが知られています。近年、がん細胞から放出された exosome 中のmiRNA は、がんの転移や増殖に寄与していることが明らかとなっております。そこで、本研究では神経障害性疼痛時に血液中の exosome に含まれる miRNA に着目し、発現変動解析を行いました。その結果、神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄後根神経節( DRG )において、 miRNA-21、miRNA-431、 miRNA-511-3p の発現上昇が認められました。さらに、血中 exosome において、miRNA-21 の発現上昇が認められました。さらに、骨肉腫誘発がん性疼痛モデルならびにシスプラチン誘発神経障害性疼痛モデルにおいても同様の検討を行ったところ、血中 exosome 由来 miRNA-21の発現上昇が認められました。以上より、血中exosome 由来 miRNA-21 が神経障害性疼痛時のバイオマーカーとして有用である可能性が示唆されました。今後もこの成果をさらに展開させ、神経障害性疼痛治療のさらなる発展の一助になることを期待しております。
最後に、本研究の遂行にあたり、多大なるご指導、ご鞭撻を賜りました薬理学研究室の成田年教授をはじめとする薬理学研究室および先端生命科学研究センターの先生方に厚く御礼を申し上げます。