第 10 回 日本緩和医療薬学会 優秀発表賞を受賞して
薬理学教室 博士課程 4 年 相良 篤信
第 10 回 日本緩和医療薬学会 (2016年6月 3〜5日:浜松) にて、優秀発表賞を受賞致しました。このような栄誉ある賞をいただき非常に光栄です。受賞演題名は「脳転移性乳がんにおける 5-FU 耐性自然獲得メカニズムの解析」です。以下に本研究の概要を紹介させていただきます。
乳がんの抗がん剤治療中において、徐々に薬が効かなくなる「薬剤耐性」と原発巣から脳・骨・肺など他の臓器へがんが移行する「遠隔転移」はしばしば並行して問題になることが多く、実際がん細胞の進行と共に積極的な抗がん剤治療を行っても予後不良のケースが多いのが現状です。近年、慢性的な抗がん剤治療により薬剤耐性能を獲得した細胞群は転移・増悪を招くことが報告されておりました。その一方で、遠隔転移した細胞群が慢性的な薬物処置の有無にかかわらず、薬剤耐性能を持ち合わせている可能性については不明でありました。そこで本研究では、乳がん親株から脳転移株ならびに骨転移株を作製し、これらの細胞に対する抗がん剤 5-FU (5-fluorouracil) の効果を検討しました。
興味深いことに、薬物を処置していないにもかかわらず、乳がん脳転移株は親株と比較して5-FUに対する薬剤耐性が認められました。そこで、薬剤耐性の原因遺伝子を探索するために、次世代シークエンサーを用いて RNA-Sequenceによる網羅的な遺伝子発現解析を試みたところ、脳転移株においてのみ抗アポトーシスタンパク質BCL2A1の過剰発現が認められました。そこで、脳転移株におけるBCL2A1遺伝子を抑制したところ、5-FUに対する薬剤耐性の回復が認められました。さらに、親株にBCL2A1を過剰発現させたところ、脳転移株と同様な薬剤耐性が認められました。また、オンラインデータベースより乳がん患者のBCL2A1発現における生命予後を分析したところ、BCL2A1高発現患者は予後不良であることが示唆されました。
以上の結果より、乳がんの脳転移においてBCL2A1の過剰発現が引き起こされることで、薬物処置に関係なく、薬剤耐性の自然獲得が誘導されることが示唆されました。
最後に本研究を遂行するにあたり、多大なご指導を賜りました薬理学教室 成田 年 教授、先端生命科学研究センター 加藤 良規 准教授をはじめ、薬理学教室および先端生命科学研究センターの先生方に厚く御礼を申し上げます。