「2016年度あいちシンクロトロン光センター大学院生のための成果公開無償利用事業」の採択について
薬剤学教室 修士課程1年 関根 朋美
この度は、私の提案いたしました課題が「2016年度あいちシンクロトロン光センター大学院生のための成果公開無償利用事業」に採択されました。採択された研究課題は、「錠剤における滑沢剤分散状態の蛍光X線分析による定量的評価」です。
現在、世界的に流通している医薬品製剤のうち、錠剤は最も汎用される剤形です。ある統計では、錠剤は医薬品製剤全体のおよそ50%を占めるともいわれています。錠剤は、取扱いの簡便さや服用のしやすさ、苦みマスキングができることなど、注射をはじめとする他の剤形と比較して、多くの優れた特性を有しています。錠剤は、有効成分を中心として、様々な添加剤をあわせて混合、打錠することで調製されています。しかしながら、用いられる原料粉体の性質は一様ではなく、粒子径や流動性がまったく異なることもめずらしくありません。性質の異なる粉体を同時に効率的に混合することは、優れた製剤特性をもつ錠剤の調製には必須条件であり、これらの条件探索には多くの時間が費やされてきました。とくに、大スケールで操作を行う生産現場では、原料粉体を効率的に混合することが大きな課題となっています。混合がうまくできないと、打錠障害とよばれる、錠剤表面が欠けたり剥がれたりする現象が発生し、コスト面からも損失が生じます。そこで、原料粉体流動性の改善や打錠障害防止のために、古くから滑沢剤が用いられてきました。
現在滑沢剤として繁用される化合物に、ステアリン酸マグネシウムがあります。ステアリン酸マグネシウムは、脂肪酸のマグネシウム塩であることから疎水性の性質をもちます。そのため、添加量が過剰だったり、混合時間が長過ぎると、錠剤表面のぬれの阻害を招き、崩壊性や溶出性をはじめとする錠剤の品質、すなわち製剤特性を著しく低下させる恐れがあります。優れた製剤特性を備えた錠剤の製造には、滑沢剤混合の過程はとくに重要であることから、ステアリン酸マグネシウムの添加量や混合時間と混合効率の関係を知りたいと考えました。これまで、ステアリン酸マグネシウムの添加量や混合時間は経験的に決められることが多く、系統的な知見はほとんどありません。そこで私は、ステアリン酸マグネシウムの錠剤表面での分散状態を調べることにしました。すでに、電子顕微鏡やテラヘルツ分光を用いて、いくつかの実験を行っておりますが、さらに微視的な実験が必要です。そこで、「あいちシンクロトロン光センター」において蛍光X 線スペクトル測定や硬X線によるマッピング測定を行い、混合時間や滑沢剤添加量を変化させた際の錠剤表面での滑沢剤の分散状態を定量的に解析したいと考えています。これにより滑沢剤の添加量や混合時間と製剤特性との関係を明らかにし、また、錠剤の添加剤を非破壊的に定量化する新しい手法が加わることになり、製剤研究の発展に貢献できると考えています。
最後に、本研究の採択に関して、多大なるご指導、ご鞭撻を賜りました薬剤学教室の髙山幸三教授、小幡誉子准教授をはじめご協力頂きました皆様に心より御礼申し上げます。