日本における医療の進歩と発展は、その高度な技術と専門性を担保する医療機関によって支えられています。特に、厚生労働省が認定する「特定機能病院」は先端医療を地域社会に提供するという点で中心的な役割を果たしています。その一端を担っている日本医科大学付属病院で薬剤部部長という重責を担っているのが、星薬科大学の卒業生である伊勢雄也さんです。
「本院は42の診療科を持ち、一般病床850床、精神病床27床の計877床を有しています。一人ひとりの患者さんに寄り添うために薬剤師の数も80人以上おります。病院薬剤師の業務は、医薬品の管理から、処方箋の安全性を守るための徹底したチェック、患者さんへの服薬指導まで幅広いです。さらに、先進医療を求めて『特定機能病院』である本院を訪ねてくる患者さんも多くいらっしゃいます。そうした方々の期待にお応えするために、薬剤師には高い専門性も求められる時代になってきたと肌で感じています」
そう語る伊勢さん自身、緩和医療分野の研究者という一面をもっています。星薬科大学を卒業後、薬剤師として病院に勤務をしながら、星薬科大学の大学院で基礎研究に従事し、博士号を取得。「鎮痛剤として使用されるオピオイドに関する研究をしていました。緩和医療の現場では、鎮痛薬の適正使用は重要なテーマです。臨床で痛みに苦しむ患者さんと接する中で、その発展に研究面でも貢献したいと考えたのです。今、星薬科大学で培った研究能力は、患者さんの痛みを和らげる新しい方法を模索するために、そして、日々の業務で直面する様々な疑問に科学的アプローチで解答を見出すために、欠かすことのできない力となっています」
伊勢さんは一枚の絵を大切にしています。
「薬剤師の専門性を高めると言っても、すべての患者さん一人ひとりに寄り添う気持ちは変わりません。この絵は、服薬指導をした際にある患者さんに書いていただいたのです。『薬のおかげで体調が良くなりました。そのありがとうの気持ちです』と。薬剤師として患者さんのありがとうに勝る喜びはないですね」
星薬科大学の研究室での経験は、伊勢さんにとって、患者さんに寄り添う薬剤師としての在り方を模索する旅の出発点でした。基礎研究で養われた批判的思考力と、薬学の深い知識は、患者さんとその家族が直面する問題を解決するための強固な基盤となっています。
「患者さんの生活の質(QOL)を向上させるためには、院内のチーム力、医師、看護師をはじめとした医療従事者の連携が欠かせません。医師と会話をする際、お互いに緩和医療の深い専門知識を有することで、スムーズに治療プランを決定できたという経験もあります。また、星薬では学部生時代から、多くの先生、友人と交流する中で自然と、必要な情報をチーム内でコミュニケーションするという病院薬剤師に求められるスキルも磨かれていったと感じています」
これから薬剤師を目指す方々へのエールとして、伊勢さんは一言「挑戦を恐れないでほしい」と伝えたいと語ります。
「薬剤師の役割は日々進化しており、学び続けることが必須です。しかし、それだけに、この仕事は非常にやりがいがあり、学んだ分だけ、多くの人の生活を豊かにすることができます。星薬科大学で学ぶ楽しさを知った薬剤師の皆さんが、より良い医療の未来を創ってくれることを心から願っています」