PROJECT

世界で唯一の「糖鎖研究」で解き明かす、生命科学の新たな可能性

機能分子創成化学研究室 眞鍋 史乃 教授
#ADC #がん治療 #抗体薬物複合体 #研究と教育 #糖鎖合成 #糖鎖研究

01 難病治療の不可能を可能にする、
「糖鎖」という新たな研究フィールドに挑む

機能分子創成化学研究室では、有機化学で「糖鎖」を合成する研究をしています。グルコースやグルコサミンといった成分の名前を聞いたことがある方も多いと思います。これらはすべて糖の名前であり、あらゆる細胞の表面ではこうした糖が連なる「糖鎖」と言われるものが存在しています。
人体の中でタンパク質は、この糖鎖が付加することによってはじめて機能を発揮するものが多いことが分かっています。そこで、糖鎖のはたらきを解析し活用することで、タンパク質が与える人体への影響をコントロールしようという動きがあります。

良く知られているゲノム治療はDNAを解析することで誕生した新しい医療領域です。糖鎖はすべての細胞の表層に存在するため、DNAに勝るとも劣らない医療革新の可能性をもっていると注目されています。皆さんの身近な例ですと、インフルエンザウイルスは感染時に、細胞の糖鎖に付加することで発症します。その付加をブロックする薬が『タミフル』なのです。今後、糖鎖についての研究がさらに進めば、新型コロナウイルスのような新しい感染症が流行した場合でも、即座に効果的なワクチンを開発することも夢ではありません。

02 “自然界にない糖鎖”の合成を可能にする、
“世界で唯一”の技術

私たちは有機化学を活用し、自然界に存在する糖鎖に加えて自然界では得られない糖鎖を合成しています。そもそも糖鎖というものは不均一な構造をしているため自然界からの単離精製が難しく、糖鎖の構造と糖タンパク質の機能の関係を明らかにはできませんでした。この世界唯一の技術によって、一つの「抗体」について60種類以上の「糖鎖均一抗体ライブラリー」を作成できるまでになっています。以前は人工で合成できる糖鎖均一抗体は抗体の1対の糖鎖が左右対称なものに限られていました。私たちはその限界を破り、非対称なものも合成する方法を開拓した結果です。
「抗体」という言葉を使いましたが、皆さんは“身体に入り込んだ異物を、生体内から除去してくれるもの”というイメージを抗体に持たれているのではないでしょうか。最近、「抗体薬物複合体(=Antibody-drug conjugate: ADC)」という新しい治療薬が注目されています。
ADCとして最も注目を集めているのが抗がん剤です。特定のがん細胞に結合する作用をもった抗体の糖鎖に抗がん剤を結合することで、ピンポイントでがんを治療する治療薬を作ることが可能となりました。がん以外にも様々な疾患を治療する可能性をADCは秘めています。

抗体-薬物複合体(Antibody-drug conjugate: ADC)の構造

 

ADCの司令塔

03 星薬の研究室は、学生が“世界最先端の研究を
肌で感じられる”貴重な場所

私たちの発見した糖鎖合成の技術により、自然界にある糖鎖の構造の再現だけでなく、新しい生命現象の解明に役に立つような天然にない化合物も合成することもできるのです。これは、いままでは机上のものでしかなかった難病治療の理論に“実現の可能性”を与えるものです。このように抗体の糖鎖を系統的に網羅的に改変していくということは、私たちの研究室にしかできない技術であり、特許出願もしています。こうした世界で唯一の私たちの技術を評価いただき、多くの企業や研究所との共同研究を行っています。実際に今では、企業の研究員が星薬の研究室で、学生とともに糖鎖研究に打ち込んでいます。一流研究員が何を考え、どのような姿勢で研究に打ち込んでいるかを間近で知ることができる環境は、学生のキャリアパスに対しても非常に良い影響を与えると考えています。

私たちの研究室には研究者をめざす学生もいれば、薬剤師になりたいと考える学生もいます。しかし、どの学生も変わらず自発的に研究に取り組む姿をいつも頼もしく感じています。将来、研究職に就かなくても、自分で能動的に調べ、世界のトップレベルの学問や研究に向き合った時間で育んだ知識と心は、どの職種に行っても非常に役に立つ武器になるはずです。
星薬の魅力は、そうした世界でも最先端の薬学研究に携われる可能性をすべての学生に与えられているという点ではないでしょうか。
私は研究の一番の醍醐味は、緻密な考察と実験を積み重ねるという努力の先に望んだ成果を掴み取った瞬間の喜びにあると考えています。さらにその先には、世界で誰もが知らない発見をする可能性もあります。私自身、今の糖鎖合成につながる発見をしたときは、100年以上も変わらなかった原理・原則を自分が変えることができるかもしれないという感動を覚えました。そうした喜びを、ひたむきに研究に打ち込む学生たちに味あわせてあげたいと心から思っています。そうした思いを、全ての教員がもっていること。それが星薬の研究力の源泉の一つなのかもしれません。

機能分子創成化学研究室
眞鍋 史乃 教授
1986年4月 東京大学教養学部理科II類入学
1993年12月 米国コロンビア大学化学科Staff Associate
1994年4月 日本学術振興会特別研究員 (DC2)
1996年3月 東京大学大学院薬学研究科製薬化学専攻博士課程後期修了博士(薬学)取得
1996年4月 東京大学薬学部教務補佐員
1996年10月 理化学研究所・基礎科学特別研究員
1999年10月 科学技術振興事業団CREST研究員
2000年4月 理化学研究所研究員
2002年11月 科学技術振興機構さきがけ研究員(兼務)
2007年4月 独立行政法人理化学研究所専任研究員
2019年10月 東北大学大学院薬学研究科医薬品開発研究センター教授(クロスアポイントメント)
2020年4月 星薬科大学薬学部教授

文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術予測センター専門委員、日本学術会議会員など。

 

 

受賞
1998年 公益社団法人有機合成化学協会中外製薬研究企画賞
2002年 第27回反応と合成の進歩シンポジウムポスター賞
2003年 平成14年度日本薬学会奨励賞
2007年 The 4th Japanese-Sino Symposium on Organic Chemistry for Young Scientists, Outstanding Research Presentation Award
2012年 第5回資生堂女性研究者サイエンスグラント
2016年 日本学術振興会科学研究費審査日本学術振興会表彰
2021年 公益社団法人有機合成化学協会カネカ・生命科学賞

糖鎖や抗体を主として有機化学の力で生体高分子を合成・修飾することで、生命現象の解明や、次世代医薬品のシーズ創成を目指しています。

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