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研究
2025.03.25

大竹史明准教授らの研究グループが、研究成果を英国科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に発表しました

タンパク質分解のホコとタテ:疾患を防ぐ酵素たちのせめぎ合いを発見

-炎症疾患の新たな治療戦略に道筋- 

 

星薬科大学の大竹史明准教授らの研究グループは、細胞内のタンパク質分解の促進因子(ホコ)と抑制因子(タテ)がせめぎ合う新原理を発見し、3月24日に英国科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に発表しました。

 

【研究成果のポイント】

  1. 細胞内のタンパク質は、分解の目印である「ユビキチン」注1)を付加されると分解されます。タンパク質分解の異常はがんや神経変性疾患、免疫疾患など様々な疾患を引き起こします。細胞内ではユビキチンを付加する酵素と切断する酵素が拮抗しています。両者がせめぎ合う中でどのようにしてタンパク質の分解が達成されるのでしょうか?これは「ホコとタテ」の故事にも似た謎でした。
  2. 本研究は、2種類のユビキチン付加酵素(ホコ)であるTRIP12とUBR5注2)が、両者が存在する場合のみ、ユビキチン切断酵素(タテ)であるOTUD5注2)の分解を促進することを見出しました。そのメカニズムを検討した結果、TRIP12とUBR5が協力することで、OTUD5によって切断できない形状のユビキチンを付加することが判明しました。
  3. OTUD5は細胞の炎症応答を抑える働きをもっており、TRIP12・UBR5・OTUD5の拮抗は炎症応答を制御していることがわかりました。
  4. 本研究は細胞内のタンパク質分解をめぐるせめぎ合いと、その勝敗を決する仕組みを発見しました。この知見は炎症疾患などの新たな治療戦略につながる可能性があります。

 

 

【概要】

 星薬科大学先端生命科学研究所の大竹史明准教授(責任著者)、森田真衣さん(薬学研究科修士2年:筆頭著者)、高尾美優さん(薬学部創薬科学科4年)、千葉崚太郎さん(薬学研究科修士1年) 、友松翔太特任助教 、秋月慶乃さん(薬学研究科博士1年)らは、鳥取大学の佐藤裕介准教授、徳久歩乃佳さん(鳥取大学大学院博士1年)、東京大学の佐伯泰教授らとの共同研究により、細胞内のタンパク質分解をめぐるせめぎ合いの新たな原理を世界で初めて発見しました。
 細胞内で遺伝子の情報を元に合成されたタンパク質は、役割を終えると分解されます。適切に分解が行われないと、不要なタンパク質が細胞内に蓄積し、がんや神経変性疾患、炎症疾患などの疾患を引き起こします。逆に、必要なタンパク質が過剰に分解されてしまうと細胞が機能しなくなり、やはり疾患の原因になります。したがって、細胞内のタンパク質分解は適切なレベルを保つよう厳密に調節されています。
 細胞内で分解されるべきタンパク質には「ユビキチン」と呼ばれる目印(荷札のようなもの)が付加され、ユビキチンでタグ付けされたタンパク質は「プロテアソーム」注1)と呼ばれる分解工場に運ばれて分解されます。細胞内にはユビキチンを付加する酵素、切断する酵素が多数存在し、バランスが保たれています。いわば、タンパク質分解の「ホコ」と「タテ」が細胞内でせめぎ合っている状態です。では、タテとホコの勝敗を決めるルールはあるのでしょうか?(図1A)
 今回研究グループは、2種類のユビキチン付加酵素(ホコ)であるTRIP12とUBR5が、両者が共存する場合のみ、ユビキチン切断酵素(タテ)であるOTUD5の分解を促進することを見出しました。
 そのメカニズムを調べたところ、次の結果を得ました。①UBR5が付加したユビキチン(K48型)はOTUD5によって容易に切断される(図1B)、②TRIP12が付加したユビキチン(K29型)は分解のタグとして機能しないが、OTUD5に対して耐性をもち切断されない(図1B)、③TRIP12とUBR5が協力して付加したユビキチン(K29/K48分岐型)は、OTUD5に耐性がある上に分解のタグとして働く。つまり、2種類のユビキチン付加酵素が協力した時に切断酵素とのせめぎ合いに勝利することがわかりました(図1C)。
 OTUD5は炎症応答の抑制因子であり、TRIP12/UBR5による分解制御が働かずにOTUD5が蓄積すると、細胞の炎症応答が抑制されることもわかりました図1C)。
 以上、細胞内のタンパク質分解をめぐるせめぎ合いと、その勝敗を決する新たな原理を発見しました。この知見は炎症疾患などの新たな治療戦略につながる可能性があります。研究成果は2025年3月24日(日本時間19時)に英国科学誌『ネイチャー』姉妹紙である『ネイチャー・コミュニケーションズ』オンライン版に掲載されます。

 

注1)ユビキチン・プロテアソーム
細胞内で不要になったタンパク質は分解され、新しく合成されたタンパク質に置き換わっています。分解されるべきタンパク質を選別するための「目印(タグ)」の役割を果たすのが「ユビキチン」です。不要になったタンパク質は、「ユビキチン付加酵素」によって、ユビキチンを付加されます(ユビキチン化と呼ばれる)。ユビキチンを付加されたタンパク質は、タンパク質分解酵素である「プロテアソーム」へと運ばれて、分解されます。ユビキチンが鎖状に連なったものは「ユビキチン鎖」と呼ばれ、形状によって機能が異なると考えられています。一連の細胞内経路は「ユビキチン・プロテアソーム系」と呼ばれています。細胞内で分解されるべきタンパク質(不要になったタンパク質)にユビキチンを付加する酵素=ユビキチン付加酵素が、各々が特定のタンパク質を見分けてユビキチンを付加する役割を持っています。

注2)TRIP12・UBR5・OTUD5
TRIP12、UBR5はユビキチンリガーゼと呼ばれる酵素であり、標的となるタンパク質にユビキチンを付加し、当該タンパク質の分解を促進します。TRIP12はK29型、UBR5はK48型(Kはリシン残基を表す)のユビキチン鎖(注3参照)を特異的に形成します。OTUD5は脱ユビキチン化酵素と呼ばれる酵素であり、ユビキチン鎖を切断することで、タンパク質分解に拮抗しています。

注3)K29型・K48型ユビキチン鎖
ユビキチンは互いに連結して鎖状に連なります。このようなユビキチン多量体は「ユビキチン鎖」と呼ばれます。連結に使われるリシン残基の部位によってユビキチン鎖の構造は異なるため、それぞれ特異的な機能を発揮します。K48型ユビキチン鎖はプロテアソーム(注1参照)に運搬される目印となることで、タンパク質の分解を促進します。この2種類のタイプが入り混じったユビキチン鎖を「K29/K48分岐型ユビキチン鎖」と呼びます。

 

【プレスリリース資料】

 

【論文タイトル】
Combinatorial ubiquitin code degrades deubiquitylation-protected substrates
ユビキチンコードの組み合わせが脱ユビキチン化で保護された標的を分解する

【掲載誌】
英国科学誌『Nature Communications』
doi; 10.1038/s41467-025-57873-9

 

【問い合わせ先】
<研究に関すること>
星薬科大学先端生命科学研究所
准教授 大竹史明
E-mail: f-ohtake[at]hoshi.ac.jp

<星薬科大学および報道に関すること>
星薬科大学
〒142-8501東京都品川区荏原2-4-41
星薬科大学イノベーションセンター
部長 吉田秀保
E-mail:h-yoshida[at]hoshi.ac.jp

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