私たちの研究室では微生物を利用した研究を行っています。微生物が持っている、未だ解明されていないスゴい能力を見つけ出して、新しい化合物の創製へ利用しようという研究です。
近年、微生物が持つ遺伝子と酵素機能が次々と明らかになってきています。これらの遺伝子を人為的に組み合わせることで、微生物に新しいチカラを与えられる可能性があります。
抗生物質であるペニシリンは青カビから作りだされるように、微生物は多くの化合物を作り出す小さな“工場”です。私たちの研究は、このマイクロメートルサイズの“工場”に新しい効能をもった物質を生み出す能力を与えようというものです。
今後、私たちの研究が進んでいくと、特定の微生物に砂糖水を与えるだけで、難治性疾患に効く特効薬を生み出すことも可能になるかもしれません。
さらには、私たちは、微生物は人類の時代を変えるチカラを秘めていると思っています。もっと想像すると、例えば、人類が宇宙で暮らす時代に貢献できる可能性にもつながります。宇宙空間に化学工場を建築するのは現在の科学技術を持ってしても、とても困難です。しかし、私たちが研究している微生物ならば、荷物として持ち込むことは可能です。
現在、藻類などの微生物を使ってジェット燃料を作る技術はありますが、石油から精製するより費用が高いため、あまり導入が進んでいません。しかし、地球以外の資源の乏しい環境ではどうでしょう。人類は未だ火星に到達していませんが、火星と地球の往復のために、微生物を利用して火星からの帰りの燃料を作ることも考えられています。
人類が地球以外の環境で活動する頃(時代)には、3Dプリンターで工具を作るように、医薬品は化合物の生成能力をデザインした微生物が作っているかもしれません。
私たちの研究対象は、とても小さな生き物ですが、究めていくと宇宙にだってつながります。研究って、そうした大きな可能性を秘めた活動なのです。
薬学という学問は、植物をはじめとした自然から天然物質を取り出し、その効能を知ることからはじまりました。星薬の創立者である星一先生は、日本に西洋的な薬の文化が定着する前に、植物から鎮痛薬であるモルヒネや抗マラリア薬であるキニーネなどのアルカロイドを分離精製する方法を確立し、東洋一の製薬会社を築きました。
星一先生は、有名なSF作家である星新一さんの父です。息子さんの作品ほど世にしられていないのですが、星一先生も『30年後』というタイトルのSF作品を書いています。私は星薬科大学の研究には「夢」を見るDNAが、多分に組み込まれていると思うのです。
薬学というと、目の前の患者さんを治すというとても大切な使命が大前提にありますが、もっと先を想像して、もっと広く人類のために貢献するというような考え方を持つことも、これからの薬学には必要ではないでしょうか。
前述した“人類が宇宙に飛び立つ可能性”という大きな夢にワクワクする・・・そうしたチャレンジのDNAが星薬科大学にはあると、私は解釈しています。
その裏付けとなるのが、本学には様々なジャンルの研究が行われていることです。どんな学生でもその中に一つは面白いと思えるものがあるはずです。その“面白い”をきっかけに、研究に没頭してもらえると良いですね。真剣に何か一つをやりきることが、人生において大切な宝物になります。薬学は幅広い学問です。早く自分の興味を見つけ、それに全力を尽くしてください。星薬科大学には、一生懸命に研究をする学生を後押しするのが好きな熱意を持った先生ばかりなので、思いっきり挑戦してほしいと思います。