PROJECT

予防医学の最前線で挑む、がんの環境要因研究

衛生化学研究室 戸塚 ゆ加里 教授
#DNA変異シグネチャー #がん予防 #オルガノイド #予防医学 #環境要因 #研究と教育

01 環境要因を解明し、
がん予防の新時代を切り開く

「日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる」と言われる現代において、がんの原因を解明し、予防法を確立することは喫緊の課題です。衛生化学研究室では、この課題に挑むべく、がんの予防に焦点を当てた革新的な研究を展開しています。
研究によれば、がんの発症には遺伝的な要因よりも環境要因が圧倒的に大きく関与しています。タバコや生活習慣がそれぞれ30%を占め、その他の環境要因を含めると全体の60~70%が環境によるものとされています。この事実は、適切な生活習慣の改善や環境対策によって、がんのリスクを大幅に低減できる可能性を示唆しています。
しかし、効果的な予防対策を実現するためには、どのような環境要因がどのようにがんを引き起こすのか、そのメカニズムを解明する必要があります。私たちの研究室では、最新のゲノム解析技術を駆使し、環境要因とがん発症の関連性を科学的に明らかにする研究に取り組んでいます。この研究は、将来的な予防医療や新薬開発の基盤となることが期待されています。

02 「変異シグネチャー」が解き明かす
未知の発がん要因

私たちの研究室が注目しているのが、次世代シークエンサーを用いた「変異シグネチャー」の解析です。この手法では、がん細胞のDNAに刻まれた変異パターンを解析し、その原因となる環境要因を特定することができます。
変異シグネチャーとは、DNAに生じた変異の特徴的なパターンのことを指します。これらのパターンは、特定の化学物質や紫外線、喫煙など、変異を引き起こす要因によって異なり、「環境要因がどのように細胞のDNAを損傷するか」を解明するための重要な手がかりとなります。この解析により、これまで明らかにされていなかった発がんのメカニズムを科学的に説明することが可能になります。

現在、約100種類の変異シグネチャーが確認されており、その一部は喫煙や特定の化学物質などと関連付けられています。しかし、多くのシグネチャーの原因は依然として解明されていません。
私たちは、化学物質による特徴的な変異シグネチャーをカタログ化し、人のがん組織で見つかったパターンと比較することで、発がんの原因を特定する研究を進めています。この技術は2014年、大阪の印刷工場で発生した胆管がんの原因特定において、その有効性を証明しました。ジクロロプロパンに曝露された作業員のがん組織から得られたシグネチャーが一致したことで、この物質が原因であると科学的に証明されたのです。この成果は、変異シグネチャー解析が未知の発がん要因解明に寄与する可能性を示しています。
さらに、最近では日本人に特徴的な腎臓がんの変異シグネチャーの研究が進められており、その原因特定に向けた取り組みも始まっています。こうした研究は、がん予防の新たな扉を開く鍵となるでしょう。

03 次世代の安全性評価を担う
「オルガノイド」技術

化学物質の安全性評価における革新技術として、私たちは「オルガノイド」を活用した研究を進めています。オルガノイドは、幹細胞を用いて作られる「ミニ臓器」で、生体に近い状態を再現することが可能です。この技術は、動物実験を代替する評価手法として注目されています。
オルガノイドを用いることで、遺伝毒性の詳細な解析が可能になります。従来の培養細胞では再現できなかった組織の複雑な挙動や化学物質の影響が、オルガノイドでは観察できます。また、このデータを変異シグネチャー解析と組み合わせることで、より包括的な安全性評価が可能になります。この技術が創薬や食品添加物の評価、さらには環境汚染物質の影響調査など、多様な分野において革新をもたらすと考えています。

04 がん患者との出会いが
私の研究者人生を変えた

私の研究者としての道のりは、決して最初から順調だったわけではありません。大学院に進学したのも、明確な目標があったからではなく、漠然と『もう少し研究に触れてみたい』という気持ちからでした。同級生たちが薬剤師や製薬会社へと進む中、私は何をしたいのか分からないまま、ただ研究を続けていました。
転機となったのは、国立がん研究センター研究所での経験です。実験補助員として働き始めた当初は、研究のサポートをするだけの日々でしたが、次第に研究そのものの魅力に引き込まれていきました。そして、隣接する病院でがん患者さんたちと接する機会を得たとき、私は大きな衝撃を受けました。
『この人たちのために、何ができるのか』
その問いが、私を本格的ながん研究へと突き動かしました。患者さんの存在が、私にとって研究をただの学問から使命に変えるきっかけになりました。
星薬科大学で学ぶ皆さんには、本当に多くの可能性が広がっています。私の恩師が言ってくれた言葉に、『研究は恋愛と同じだ』というものがあります。自分の興味を持ったものにとことんのめり込み、その魅力を深く掘り下げていく。それが、研究者としての喜びであり、成功の鍵です。
皆さんも、ぜひ目の前の学びや経験を大切にしてください。将来どんな道に進むとしても、ここで得た知識や経験が、必ず自分や社会にとって大きな力となるはずです。情熱を持って学び続けることが、明るい未来への第一歩です。

衛生化学研究室
戸塚 ゆ加里 教授
1993年3月

明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程 修了

1993年4月

国立がんセンター研究所 発がん研究部 研修生

199711

国立がんセンター研究所 がん予防研究部 リサーチレジデント

19993

博士(薬学)論博82号(明治薬科大学大学院)取得

20036月 

国立がんセンター研究所 がん予防基礎研究プロジェクト 研究員

20083

国立がんセンター研究所 がん予防基礎研究プロジェクト 室長

201011

国立がんセンター研究所 発がんシステム研究分野 ユニット長

2012年 

国際基督教大学 非常勤講師(兼職、2022年まで)

2019年 

放送大学 健康長寿のためのスポートロジー 非常勤講師(兼職)

20214

日本大学薬学部 環境衛生学教室 教授

20244月 

星薬科大学 衛生化学研究室 教授

 

受賞

200311

日本環境変異原学会 研究奨励賞

20069

日本癌学会 研究奨励賞

衛生化学研究室では、環境要因により生じるDNAの傷やゲノム変異を網羅的に解析する手法を用いて、発がんの要因とメカニズムの解明に関する研究を行っています。また、生体を模倣したミニ臓器を利用する化学物質の安全性評価法の開発についても取り組んでいます。このような活動を介して、ヒトの健康を維持するための方法を探求しています。

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