私は、医薬品や食品の品質、有効性、安全性を科学的に評価する「レギュラトリーサイエンス」の研究を行っています。この分野は、単に新しい医薬品や食品を分析するだけでなく、それを社会に安全に届けるための基盤を築く重要な役割を果たします。
たとえば、近年開発が進む抗体薬や核酸薬のような新しいタイプの医薬品は、非常に複雑な構造を持つため、適切な評価を行うためには高度な分析技術が求められます。また、食品分野では、残留農薬や汚染物などは摂取量が多いと健康リスクをもたらす可能性があり、その正確な分析が不可欠です。これらの課題を科学的に解決するのが、私たちの研究の使命です。
過去には、食品添加物に混入するタンパク質が原因でアレルギーを引き起こした事例を解明しました。その際、原因物質の構造を特定するまでに多くの試行錯誤を重ねましたが、研究の成果として問題解決に貢献できたことは、私の研究者としての原点となっています。また、キノコの摂取による急性脳症の原因物質を示唆した経験もあり、こうした研究を通じて社会の信頼を築くことの重要性を実感しています。
私たちの研究室では、最先端の質量分析技術を駆使した高度な分析法の開発に取り組むと同時に、汎用的で現場で使いやすい簡易な分析法の開発にも注力しています。具体的には、食品中の残留農薬や食品添加物、さらにはアレルギー物質やカビ毒の正確な検出を目指しています。食品中の残留農薬の検出では、1億分の1グラムという微量な濃度を正確に測定する必要があります。この技術が向上すれば、より多くの検査機関で実施可能となり、食の安全性を大幅に向上させることができます。
また、生体内物質であるグリコサミノグリカンの分析においても、未知の健康被害の原因を解明するための手がかりを得るべく取り組んでいます。この物質は複雑な構造を持ち、診断や創薬に応用できる可能性があるため、基礎研究の段階から応用研究に至るまで幅広く展開しています。
私たちの研究では、分析法の信頼性を高めるだけでなく、現場での使いやすさも重視しています。標準的な機器を工夫して、高感度で多成分を同時に分析できる方法を開発することは、現場での応用性を高める重要なステップです。これにより、熟練した技術者がいなくても正確な分析が行える環境を整え、より多くの人々に安全な食品や医薬品を届けることが可能になります。
星薬科大学は、レギュラトリーサイエンスを教育カリキュラムに組み込む数少ない薬系大学の一つです。この分野では、医薬品や食品の品質評価に携わる高度な知識と幅広い視点を持つ人材が必要とされています。私は、こうした人材を育成することに強い責任感を抱いています。
研究室では、学生が主体的に取り組む文化を重視しています。たとえば、ある学生が、誘導体化技術を独自に改良し、分析の感度を大幅に向上させる手法を考案しました。このような意欲的な姿勢は、私自身にとっても刺激となり、学生と共に成長していける喜びを感じています。
さらに、星薬科大学の「本学は、薬学を通じて、世界に奉仕する人材育成の揺籃である」という建学の精神に基づき、国際的な共同研究を積極的に進めています。現在は、イギリスや台湾の大学と連携し、グローバルな視点を持った研究を推進しています。このような活動を通じて、世界的に活躍できる人材の育成を目指しています。
私は、日本が長年築いてきた高い品質基準を次世代に引き継ぐことが重要だと考えています。しかし、現在、医薬品や食品の品質保証に携わる人材が不足しているという課題があります。薬学は化学や生命科学、薬理学といった幅広い知識を統合した学問であり、この知識を活かして社会に貢献できる人材が必要です。
これからも、レギュラトリーサイエンスを通じて、医薬品や食品の安全性を科学的に保証し、社会の信頼を支える研究を推進していきます。また、学生たちが自らの研究を通じて社会に貢献し、未来の健康を守る担い手として成長する姿を見届けたいと願っています。