私たちは「タンパク質分解創薬」という新しい創薬手法の基礎研究を行っています。細胞内で不要になったタンパク質を分解するという、我々の体内に元来備わっている仕組みを活用し、がんや神経変性疾患、免疫疾患などの難治性疾患の治療に応用することを目指しています。
私たちの研究は特にユビキチン・プロテアソーム系 (UPS) を利用した標的タンパク質の選択的分解に焦点を当てています。不要になったタンパク質や異常タンパク質を分解するシステムUPSは、細胞の健康を司る重要な役割を担っており、タンパク質の品質管理に不可欠です。私たちの研究は、このシステムが破綻した際に生じる諸疾患、特にがんや神経変性疾患の発症機構を明らかにすることを目的としています。そのために、特定のタンパク質が特定のタイミングで分解される原理、すなわち「タンパク質分解コード」の解明に努めて、タンパク質分解誘導薬(PROTACs)の働くメカニズムを明らかにし、それらの病態における分子機構の理解を深めることにあります。
私たちは、このような分解メカニズムを解明することに成功し、論文が英国科学誌ネイチャー姉妹誌『Nature Chemical Biology』オンライン版に掲載されるなど、多くの注目を集めました。タンパク質分解創薬は、欧米のメガファーマや日本の主要な製薬会社など、とても多くの企業が参入し、開発が盛んに行われている分野です。私たちもさらに研究を進め、がん、神経炎性疾患、あるいは免疫疾患といった難治疾患の新しい治療法につながる創薬の可能性を拓いています。
当研究室では研究についての情報をHPで公開しています。タンパク質分解創薬に興味をもたれた方は、確認していただければ幸いです。
先端生命科学研究所 タンパク質分解創薬研究室
URL:https://jupiter.hoshi.ac.jp/lab/bunkai/
私は大学での研究の楽しさは、“独創性”、すなわち“自分で何かを発想し、それを実現すること”であると考えています。そこには、“世界で誰も知らない発見” の大きな可能性が潜んでいるのです。そうした点で大学という基礎研究の場には、多種多様な発見のチャンスがあります。自由な発想からの発見は、決められた目標に向かって研究を進める企業の研究室ではなかなか体験できない経験かもしれません。もちろんすべての発見が治療に役立つ成果を予想できるものではありませんが、学生たちとともに“将来誰かの役に立つかもしれない” という夢を持って研究を進めています。
夢を追い続けた結果、私たちはタンパク質分解のメカニズムを発見をすることができ、世界中の研究者から反響を得ることができました。国際学会に参加したときにフィードバックをいただいたり、世界的な研究者と共同研究のお話しをする機会も生まれています。
また、私たちの研究室では、単に教員と学生というだけでなく、一緒に研究に取り組んでいく研究の仲間とする文化があり、学生とともに新たな創薬コンセプトに取り組むという目標を掲げています。実際に学生たちはとても発見を楽しんで研究していますし、それが学会での発表や表彰、学会賞の受賞、特許の申請など学生たち自身の活躍に繋がっています。研究を通じて新しい発見をしたいという夢を持つ方は、ぜひ私たちと一緒に研究をして欲しいと思います。研究の楽しみや発見の喜びを味わいながら、新しい創薬の可能性を共に拓いていきましょう。